夜にひしぐは神おろし

お芝居とか映画とか好きなものの話を諸々。自分のためのささやかな記録。

『獣道一直線!!!』PARCO劇場、初日の感想(と見せかけたおかえりエントリ)

久しぶりに浴びる全力のお芝居、はちゃめちゃにおもしろかった! それ以上に言うべきことなんてあるかな? って思うんだけど、やっぱり言いたいし、まとめておきたいことがある。

お話の内容とか役者さんの煌めきについても語りたいんだけど、それはまたゆっくり語るとして、今回はクドカンおかえり!の気持ちのエントリにします。

つまり、クドカンの脚本を褒めます。とにかくシリーズ集大成じゃない? って言いたいくらい最高だったので、ただひたすら最高だったクドカンのホンの話だけします。

獣道一直線、屈指の完成度だった

お話の進み方、プロットとプロットがクロスオーバーする見せ方があまりに技巧的で、ゲラゲラ笑いながら鳥肌が止まらなかった。マジでうまくないですか? うますぎないですか???

クドカンのオリジナル脚本の中でも、何かがクロスオーバーしていくタイプのお話が好きなんです。過去と未来、現実と妄想、誰かの人生と誰かの人生。クロスオーバーの技巧がこんなにうまい作家もなかなかいないのでは? と常々思っているのだけど、獣道一直線のプロットの技巧は、本当に褒め称えていいレベルの完成度だと思うの。

記録と物語が交錯する狭間で、主体と客体が揺さぶられる不安定さ。揺さぶられながら、自分が何を観ているのかを掴み取っていくような時間にすごく興奮する。虚構っていうのは、ああやって煙に巻かれていつのまにか当たり前に観ちゃってる世界の中にあるんだ。虚構の中にいるとき、私たちはそれを出来事として目撃している。

クドカンが独特なのは、肩の力が抜け過ぎてる具合とかどこか突き放した結末で、だから意欲作とか問題作っていう扱われ方をしないところなんじゃないかと思う。今回もコロナ禍の世相に対して恐ろしく突き抜けた態度で臨んでいるように見えて、でも「あんま何も考えてないです」って言うんだろうなって。

試験紙みたいなフレームと揺るがない緻密な馬鹿馬鹿しさ

クドカンだけでなく松尾さんも(それぞれ全然違う形で)主体と客体の話を扱っているし、大人計画にはどこか自己批判的な文脈が漂ってるって感じてる。松尾さんは宗教のフレームで書きがちだけど、クドカンは政治のフレームで書きがちだなっていうのも感じる。これは私個人の解釈なので個人の解釈以上の意味を持たせるつもりはないんだけど、とにかく私はそう思ってる。

宗教の話には踏み絵がある。政治の話には、試験紙みたいなものがある。獣道一直線にも試験紙的な性格があった。腹を抱えるほどの笑いの根底で、あなたは誰を何を見下しているの? みたいなものが見えそうで見えなくて、見えたほうが楽かもしれないけど認めてしまうのは怖くて、その薄寒さに悶えてしまう。

どのシーンに、どんな感想を抱くのか? それを通じて普段上手に隠してる社会的な後ろめたさが露わになるような感覚。対して、そんな感覚を抱かない人もいるんだろう。ざわっとするような感覚を抱くも抱かないも紙一重で、抱いたからどうだってわけではない。でも誰でも自分自身にだけは見えてしまうのだ。自分が何の色に染まっているのか。

ふと、観る人によっておかしみを感じるポイントとかうざみを感じるポイントとか、そもそも見えてる視野自体がまるっと違うんだろうなって思ったら、思わず身震いしちゃった。同じもの観て笑ってるのに、何ひとつ同じものを見てない可能性があって、それがこんなにも恐ろしいだなんて。ああほら、いつのまにか自分の視点が揺さぶられている。あんなに頭からっぽでゲラゲラ笑ってたはずなのに。

この試験紙的な部分こそが「これぞ演劇!」って感じで好きなんだけど、説教臭く押し付けてくるわけでもなく、素通りして逃げるわけでもなく、真正面から突き抜けて放り出されたその表現がクドカンらしい。突き抜けて語らず。表現がすべてを問いかけてくるのがすごいんだ。いい加減さと包容力は少し似ている。板の上に答えを放り出して語らないその姿には、信頼できる表現人の美しさがにじむ。

試験紙がどんな色に染まろうとも、でもみんなまとめてクスリと笑ったりゲラゲラ笑ったり、ちょっと引いたり驚いたりできるのが、お芝居のすごいところ。「どんとまとめて好きにやんな」って、演者が観客を信じてくれるから、観客も演者を信じることができる。色が違うくらいそんな大したことですかね? っていう揺るがない緻密な馬鹿馬鹿しさを無造作に繰り出してくるクドカンは、ホントに天才なんだろうな…。

また別途、感想書きます

言いたいことがありすぎて、胸がいっぱい。たぶんまた書きます。あと何回か観に行く予定なので、しっかり体調管理と対策して備えます。

いろいろ大変な時期だけど、劇場の対策もていねいですごくありがたかった。関係者の皆さんも遊びに行くファンの皆さんも自分自身も気を引き締めて無事に完走できますように…。