夜にひしぐは神おろし

お芝居とか映画とか好きなものの話を諸々。自分のためのささやかな記録。

偽義経、大阪千穐楽を終えて

あっという間にはじまって、あっという間に終わってしまった『偽義経冥界歌』大阪公演。なんだったんだ。幻? どんだけ凶悪な幻だったの? 初日の感想を読み返しても、やっぱりまだ実感がないレベルですよ。

偽義経、2019年春公演(大阪、金沢、松本)と、2020年冬公演(東京、博多)で間が空くのですが、前半戦はまだ金沢と松本が残っています。私は便宜上、前半戦を前偽経・後半戦を後偽経って勝手に呼んでいるので、この記事でもそう呼んでいます。

偽義経、東京に来るからみんな安心して! という気持ちと、前偽経と後偽経ではキャストが違うから、お願い両方観てという気持ちがある。まだ後偽経は観てないけども。観てないけどもわかるんだよ!!! なんなら演出も違うかもしれないって思ってるくらいだよ!!!!

もう、迷ってる人には絶対に観てほしいという気持ちがあるので、この記事ではネタバレなしで良さを伝える努力をしてみようと思っています。ネタバレありの感想は以下の記事でやってるので、ネタバレOKな人は『何もかもを合わせ飲んで説き伏せる、偽義経の力技ビジュアル』という記事の方もどうぞ。

この煎餅に誓って、偽義経のよさ、伝えたい。届け、どこかへ。どこかってどこだ。なるべく勝率の高いところに届いてほしいけれども。

いろんな好みをまるっと抱いちゃう強さ

私は観劇が大好きだし、演劇ファンなんですけど、新感線ファンかと言われるとそういう括りではない気がする。新感線ファンではないという性癖自認を持つ人間がこれだけべろべろに酔っ払うって、やっぱりそれだけですごいと思うんですよ偽義経。

それどころか、偽義経に似ているタイプの新感線演目は実は好みの真ん中じゃなかったりするんですよね、私の場合。新感線の過去作であるVBBや蒼乱を愛している人たちが偽義経を推してるのは、完全に信用していい正統派の推し方だと思うんですよね。その逆を行く私が、べろべろに酔っ払っているのです。すごいね!

みんないろんな好みやいろんな性癖やいろんな地雷があるのに、原作者の中島先生や演出のいのうえさんは、それをみんなまるっと抱いてオタクの頂点で輝いている。新感線って強い。はちゃめちゃに強い。

適度な隙と気になる矛盾が癖になるファンタジー

偽義経のいいところは、最初っからファンタジー全開で、史実の入る余地を排除してるところだなぁと思っています。そのおかげで、不要な雑念を入れずに観ることができる。こまけぇこたぁいいんだよ! どころかざっくりファンタジーです! って名刺を差し出してくるところが安心なんですよ、偽義経。そこが髑髏城とは違う。

同じ新感線の演目である『髑髏城の七人』の絶妙なところは、誰も知らない歴史の1ページだった可能性がゼロではない… と思わせる要素が残ってるところ。それが良さだったなぁってしみじみ思う。それは別の新感線演目『メタルマクベス』もそうなんだよね。あんな未来絶対ないだろっていうツッコミは甘んじて受けるけど(笑)。

そう考えると、ステアラは回ることでパラレル世界線に連れて行ってくれる装置だったんだなぁって思うの。ファンタジーを見せてくれる装置ではなくて、パラレルタイムマシーンだったんだよ、ステアラことシアターアラウンドは。だから私たちは天正18年にいつでも行けたし、2218年にいつでも行けた。なんとなく、どうしてあの2作がステアラ上演作品に選ばれたのか、わかる気がする。たとえそれが本当の理由じゃなかったとしても、すごく腑に落ちる。そういうことなんだよ。

だから、偽義経は久しぶりの全開正統派ファンタジーなんじゃないかなぁって。それは新感線の演目としては、大変に歓迎すべきことなんじゃないかなぁって。

それでいて、実はどのようにも解釈できるような謎めいた隙が散りばめられている恐ろしいストーリーだったりするんですよ。主人公の玄久郎が明るいおバカだから目隠しされちゃってるけど、意味がわかると怖い話レベルの鬱ポイントがあちこちに埋め込まれている… と私は思ってやまない。

これは個人の解釈次第なんですよ。鬱ポイントなんてない! 少年ジャンプ! と思いながら観る人もいれば、私みたいに「か、かじゅきは、偽義経に縦読みを仕込んでいるタイプのやばい脚本家だ…(がくがく)」と取る人もいる。一見勧善懲悪のストーリー書きました、っていう体裁に縦読みを仕込んでるかじゅきのギミック、私は信じてる。

その適度な隙が、オタクをまるっと抱いちゃう肩幅の広さに繋がるんでしょうね。とってもよい隙。

行けるものなら行きましょう、前偽経が終わる前に

いやホント、そういうことです。そういうことなんです。よろしくお願いします。

きっとあなたも好きになる。ならなかったらしかたない。とにかく観れるうちに観ておきましょう。偽義経の大阪千穐楽を終えて、現場から言いたいことは以上です。