夜にひしぐは神おろし

お芝居とか映画とか好きなものの話を諸々。自分のためのささやかな記録。

何もかもを合わせ飲んで説き伏せる、偽義経の力技ビジュアル

突然だけど、新感線の舞台ってものすごい力技だと思う。偽義経冥界歌では改めて新感線の力技を見たなぁという気持ち。めちゃくちゃ感慨深い。この記事はネタバレを含みながらとりとめもなくビジュアルについて語る記事なので、ネタバレは嫌! というかたはネタバレなしの記事の方へどうぞ。

はい、はいはい、そうですよ、そうなんだよ! 聞いて! 大阪は千穐楽を迎えたけれど、偽義経冥界歌はまだまだ続くんだよ! 金沢! 松本! 難しい内容なのでは…? などとビビッてしまっちゃわなくて大丈夫! 安心してビジュアルのパワープレイに殴られに行こうね!

ビジュアルは強さ、力こそパワー

美大生や芸大生が持ってる漠然とした「なんか作りたい」ムードって、めちゃくちゃ強いものがあって抗えない種類のものだと(個人の体験からは)思ってるんだけど、それを折らないまま商業的にスケールすると辿り着くのが新感線、っていう感じがある。美大の文化祭の悪ノリが極まった先のひとつの見本みたいなもの。

だから文学的叙情とか社会的問題提起とか全部置いといて(それがゼロとは言わないけれど)、「強いビジュアルの強い強さを強く見よ(バーン!!)」みたいなとこがあると思ってる。ビジュアルは強さ、強さは力、力こそパワー。

矛盾も疑問も全部まるっと合わせ飲んで、圧倒的なパワープレイでぶん回す。新感線の舞台を観ると頭をぶん殴られたような衝撃に襲われる理由はね、力技で殴られているからなんだよ。殴られているんだから、殴られたような気持ちになります。大丈夫安心して。何も間違ってない。

そう、だから、ビジュアルの話をしよう。我々にはビジュアルの話が必要なのだ。「かっこいい」「見た目がきれい」「顔がいい」このような感想を言うと、お芝居や舞台をなんだと思ってるんだ! もっと文化的で深遠なものなんだ! チャラチャラしたこと言うんじゃない! と怒られちゃいそうな気がしますよねなんとなくだけどね いや絶対怒る人いるよねホントごめん。

でも、ビジュアルは大事だよ。ビジュアルは、大事だよ。二回言いますよね。大事だからね。視覚的表現を抜きにして、舞台は語れないのだよ。新感線の舞台はビジュアルの太さが魅力のひとつなのだから、ビジュアルを褒めて何が悪いことあるか。ダイナミックなセット、世界観を作るライティング、作り込まれた衣装、いい感じに手を抜きつつ機能を担保する小道具、役者さんの肉体という媒介。ビジュアルにはもんのすごい情報量が詰まってるんだよ。

美を浴びて感じるもよし。込められた意味を読み取って考えるのもよし。どう味わおうが、ビジュアルがいいという愉悦からは逃れられない。だからいいのだ。「ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!!」と、好きなだけしびれればいいのだ。誰にも怒られる必要はない。バカにされる必要もない。

ビジュアルは強さ! 強さは力! 力こそパワー! 太いビジュアルを観せられる我々は、そのビジュアルを信じればよい!! 信じて殴られたその痛みは本物だから。そこには強い価値があるから。もう一度言う。力こそパワーなのだ!!

歌舞伎の隈取の要素

ビジュアルのことを考えすぎて気がおかしくなってしまう前に、先にちょっとだけ知性がないと話しきれない話をしておきます。どうせ後半知性が目減りするので。

いのうえ歌舞伎をさらに歌舞伎に寄せたと言われる偽義経、登場人物がメイク=隈取を変えてゆくことで役の性格と解釈と役割を変える演出がとってもいい。ここで歌舞伎の隈取について語らずにはいられない。

ちなみに以下が偽義経で覚えている限りの隈取と衣装をメモしたアレです。正確性には問題がある(うろ覚えもいいところ)イラストなので、参考程度にご覧ください。

もちろん、歌舞伎の隈とまったく同じものが用いられているわけではないのだけど、似ている隈とか参考になる隈を調べてみたので、ざっくりメモ描きと共に語っていきます。出典は岩崎書店から出ている『隈取り―歌舞伎の化粧』です。

地獄の軍団のメイク

秀衡をはじめ地獄の軍団の隈取は、歌舞伎で言うところの「亡霊怨霊」の隈と「実悪」の隈を混ぜたようなデザインになっていて、最終的に悪役を表す青色が入っていくんだよねぇ。これには「わーっ!」ってなるよねぇ。

秀衡の最終形は、「亡霊怨霊」というよりは「実悪」に近いメイクになる。色も形も「実悪」そのもの。近いのないかな〜と探してみたところ、知盛系はどれを取ってみても近い。知盛っていうのは平知盛のことで、清盛の四男です。世界大百科事典によると「《平家物語》の中では,知盛は戦場においては果敢な武将としてふるまい,生死の場に臨んでは人間の心の動きを鋭く洞察し,また背後で人間を操り,支配する運命の不可思議な力を自覚していた人物としてえがかれる」のだそうです。そんな人物の焦燥と絶望を表現する隈。なるほどですねぇ。

清衡と基衡については、「実悪」の色合いに加えてもっと違うキャラクターのエッセンスもあったなぁって気がする。形については断然「亡霊怨霊」寄りだよね。似ているものを探してみたら、土蜘蛛やなまなり、道成寺の後ジテなんかが近かった。中でも清衡は土蜘蛛に、基衡はなまなりに近いなぁという感じ。

土蜘蛛は妖怪の類。源頼光を狙って、結局やられちゃうやつ。でも土蜘蛛っていう言葉にはもうひとつ意味があって、古代に大和朝廷に従わなかったために滅ぼされた民族を指す言葉でもあったんだって。えーめっちゃ奥華じゃん!! 奥華の設定と重なるじゃん!! 震えちゃうね。

なまなりは鬼になりかけの状態、憎しみに飲み込まれきってはいない人を指す状態。飲み込まれると般若になっちゃうわけですよね。基衡がそれに近いっていうのを勝手に解釈してみると、なかなかに興味深い。己の筋肉を信じる二代目ボンボンである基衡、「実悪」になるほどの未練みたいなものがないんじゃないの…? みたいなさ。鍛えた筋肉を誇示できるの楽しーッ! みたいな気持ちが先立ってるんじゃないのっていう(笑)。

他には戻橋の鬼女やうわなり、紅葉狩の鬼女が参考になるかな。歌舞伎は隈取や衣装の早替えが見どころのひとつになっているから、早替えのための工夫が随所に凝らされている。偽義経の冥界組も、何度も変身していくもんね。だから最初はシンプルなタイプの「怨霊亡霊」型からはじまって、ちょっと複雑な型にアップグレードしていく。ビジュアルの見どころとしても超おいしいところだなって思う!

玄久郎と遮那王のメイク

玄久郎の最終形メイクは、源九郎狐に用いられる古代狐隈っぽいメイクなんですよねぇ。聖なる獣みがあって、まさに化生って感じ。源九郎狐っていうのは、歌舞伎の『義経千本桜』義経に登場する狐ちゃん。親狐の皮で作られた鼓を慕い、その持ち主である静御前のもとへ、義経の家来で秀衡の親族でもある忠信に化身してやってくる狐ちゃんなのだそうです。

玄久郎っていう名前も絶対そこから取ってるんでしょ…? 自身の毛を織り込んだ弓弦で鳴る六絃の音を頼りに、静歌のもとによみがえる玄久郎… そういうことなんでしょ…?(震えてる)

ちなみに衣装のほうもこのあたりを踏襲してるんじゃないかって思うのが、毛縫っていうやつ。源九郎狐は白い生地に白い絹糸をよじって刺繍してある衣装を使うんだそうです。その衣装を毛縫いって言うんだって。まったく同じではないかもしれないけど、玄久郎の衣装もそういう雰囲気あったよねぇ。なんなら冥界組みんなそういう衣装だった気がする。もう記憶が定かではない。

もうひとつ、似ている系を挙げるとすると、鳴神の二本隈。ただし、こちらは強い怒気や興奮を表している隈なので、似ているとはいえ表現のもとになったかというと、そうではないと思う。古代狐の比較として置いてみたけど、見比べると表現の目的の違いがよくわかっておもしろいよね。

そして牛若丸の隈ね。こういう専用の隈があるんだね。知りませんでした。偽義経の遮那王も元服前の設定だったし、本当はこんな高貴な子どものはずなんだよね。全然高貴じゃなくてヤンキーだったけど。そもそも牛若丸みたいな高貴な子どもだったら、あんな顛末にならないよね(笑)。そうは言いつつ、牛若丸隈の面影をそこはかとなく感じるメイクだったのはさすがだなって思った。牛若丸の隈よりも鬼女に近いでしょっていう感じの隈だったけど、そこはかとなく牛若丸だったんだよなぁ。すごい。

ビジュアルのこと考えるの超たのしいよ!

ここまでしてきた隈取の話は、私が勝手に結び付けているだけの話なので、正解でもなければ信じるべきものでもないです。間違ってるかもしれないし、素人の妄言以上でも以下でもないんですが、が、が、いろいろ考えるのって楽しいよね…。

いろいろ考えるのは楽しいのだ… みんなも楽しもうよ… ってことだけは声を大にして言いたい。大にしたいから大にした。ああ清々しい。皆々様も自分なりの妄想ビジュアルポイントを見つけて楽しんでね… おねえさんとの約束だよ…。

ビジュアルがいい話をします

さて、前置きが長くなったけど、これから知性をほっぽり出して「ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!!」と白目を剥く話をします。

極まったキャラクターデザインと引き絵としてのバランス両方の話をしたいなぁと思ってるんだけど、なにせ知性をほっぽり出してしまうので、途中でわけわかんなくなったらごめんね。あとキャラクターについては自分の好きなキャラクターだけをピックアップして独断と偏見で物を言います。

どのキャラクターも好きなので全員分話したいのだけど、たぶん途中で力尽きる。間違いない。

常陸坊海尊

ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!! しかもキャラ立ちがむちゃくちゃシンプルで安心した。偽義経がはじまる前は、ビジュアルこうだったらいいな〜という勝手な妄想があった。それは役者さんと過去作に紐づく妄想で、『蛮幽鬼』という演目で山内圭哉さんが演じた浮名という男の後頭部に和風トライバルといった感じの模様が入っていたことから、またあんな感じの模様が入っていたらいいな… という単なる性癖を暴露する以上でも以下でもない妄想なんですけど。が、やはりそんな模様はなく、そして模様がないことに落胆するのではなく、とっても安心した。

きっとないとは思っていたんですよ。模様があるような役柄じゃないじゃないですか、海尊。ないと思ってはいたんですよ、十中八九ね。でも、模様よあってくれという気持ちが風になり海を渡り復讐の鬼となって国に帰り城を燃やす、そのくらい模様があってほしかった。圭哉くんの頭に模様を描かずにいられない新感線ちゃんのことを信じていたし、たとえ裏切られてもまだ信じてている。でも模様がないことに安心したんですね。安心したので城も燃やしませんし 。

なぜかっていうとね、模様が不要なキャラクターに模様を描いたらダメだろ、というシンプルな理由で。なんでもかんでも足し算すればいいってもんじゃない。あるからには意味があるんであって、意味のない模様を描くわけにはいかんのだ。そんな気持ちなわけです。蛮幽鬼の浮名は女たらしの豪族ぼんぼん右大臣で、装束や身なりもそれ相応の雰囲気があった。でも海尊は山を渡り歩く僧兵のような男、しかもそれなりに信頼される立場の男。そんなキャラの後頭部にトライバルもタトゥーも要らないよね… わかる。解釈一致。

でも私は新感線ちゃんを信じているので、本当は模様を入れたかったって信じているよ。涙を飲んでプレーンヘッドにしたんだって信じているよ。だって圭哉くんほど後頭部の模様が似合う逸材もいないもんね。隙あらば描きたいよね。わかる。わかっている。みなまで言うな。圭哉くんの頭部に模様があるかないかで観劇消費カロリーが変わる世界に、我々は生きている。

ただ、圭哉くんの後頭部にある金色もしくは黄土色の何かはなんなんだろう、というのは疑問。もしかして伸ばしかけの地毛弁髪だったりする…? けもなれで一回剃ったから…? 伸ばしかけの地毛弁髪を脱色している感じ…?

東京福岡の後半戦で、圭哉海尊の後頭部がどう変化しているのか、大変に楽しみです。

奥華秀衡

ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!! 私は初日に大阪に向かう新幹線の中で、はじめてゲネプロの写真を見た。そこで目にした秀衡のビジュアルがよすぎて、本当に本当に見ちゃったことを後悔するレベルで動揺した。宣材写真と実際の舞台衣装が違うのはよくあることだけど、あっ、こんなに? こんなにやばいの今回? と動悸がした。大阪では都合4回観劇して、そのたびに秀衡のキャラ造形とビジュアルに震えた。久しぶりに本格的に語彙を失ってしまった。びっくりした。

ビジュアルが強くて無理すぎて秀衡ばっかり見てしまうため、目から得た視覚情報がうっかり口から出てニューSD秀衡を量産してしまうのではないかと心配になった。しかし私の口から生まれるような秀衡は解釈違いだし、私の口から生まれるような秀衡はいるわけないので、問題なかった。ありがとう自然の摂理。

秀衡は最低でも5パターンのビジュアルがある。6パターン目があったのかどうなのかは自分の中で審議中(金沢以降に持ち越し)なのだけど、わかっている四パターンを挙げるね。2幕以降で登場する屍人形態が最高に萌えるビジュアルなのだなぁ。

  • 生前(奥華の当主スタイル)
    • 青をベースに金で彩り、細かい装飾が施された豪華な衣装
  • 前屍人形態(冥界ルーキータイムアタックチャンス)
    • 生前の衣装が血にまみれてボロボロになり、胸元に大きな傷が走っている
  • 屍人第一形態(冥界編)
    • 衣装の形は大きくは変わらないが、粉を吹いたような白い素材に変わる
    • 顔も手足も白塗り
  • 屍人第二形態(現界編)
    • 第一形態に加え、目元や顔全体に黒いラインが強めに入る
  • 屍人第三形態(人外編)
    • 歌舞伎の悪役のような青い隈取が入る
    • 口の中を真っ赤に染めている

生前の青と金を用いた衣装が大変に豪華で美しい。あのおかげで、奥華の女たちはロビーで浴びるように青い奥華ソーダを飲む羽目になった。

全然関係ないけど、返却台に置かれた空の奥華ソーダのグラスで氷が溶けていって、一度なくなったのにまた溢れてきたみたいな様相を呈していたの、死んでも死なない地獄の軍団の暗喩かな? と思ってめちゃくちゃおもしろかった。写真は浴び続けた奥華ソーダです。

もうあれ以来、ブルーハワイ系の飲料に露骨に反応するようにはなってしまったよね。あと何杯奥華ソーダ飲めば冥界に行けるか考えたし、今から薬局で青色1号買って風呂で浴びるしかないなって思い詰めた。嘘。思い詰めていない。奥華ソーダ、青色1号ブルーハワイの単色使いだと思うんだけど、違ったかな?ちなみに青色1号を血管から送り込むと神経の炎症に効果があるという説があるんですけど、本当かどうかは知りません。

あとさとし秀衡が口の中を染めてるの、あれもねぇ。最初から染めてたっけ? 初日は染めてた印象ないのだけど、どうだったのかな〜。前楽のマチネではすこし染め色が薄めだった代わりに、唇のほうまでぐるっと太めに染まっていて、前楽のソワレでは唇に色を残さず上手にベロだけが染まってた感じがする。染め方も毎度工夫しているのだろうか。千穐楽はだーいぶ強く染めてたねぇ。ベロを見せるの、楽しくなっちゃったんだろうねぇ。わかる。

も〜〜〜さとし秀衡の白いビジュアルがよすぎて、もはや物販で白い粉を売ればいいのではと思った。おしろいでなくてもいいよ、小麦粉でも片栗粉でもいいよ。冥界の白い粉って言って売りなよ。白い粉、絶対に売れると思います。なんなら枡に詰めて売って? 白い粉一合、つまり枡一杯ぶんの白い粉。ミリオンセラーじゃないですか? もしくは地獄の軍団ちゃんのアクスタ欲しくないですか? なんか公式グッズ界隈でもアクスタ流行ってるんで、便乗しちゃえばいいんじゃないんですか? ほのぼの冥界仕様とギラギラ人外仕様の2つでお願いします。

わからないのが、後半衣装がちょっとずつ黒くなっていっているのでは…? という疑惑があって(確認しきれないまま大阪が終わってしまった)、もし色変化があるとしたら、それが6パターン目です。なんとなく、邪気が濃い人ほど黒のニュアンスが残っている気がしていて。秀衡、清衡、基衡の順で黒い。隈取の形の話でも触れたけど、基衡は筋肉バカな二代目ボンボンだから、あんまり邪気がないのかな…。

そして冥界から戻ってきたみんな、衣装に粒ラメがキラキラキラキラ散りばめてあるのに、秀衡は生地に粒ラメが入っていなくて、なめらかシャイニーな生地なんだよなぁ。袴はキラキラっていうよりギラギラだし。どうしてなの…。

遮那王牛若

ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!! ゆっくん遮那王の2幕メイク最高すぎて、あの顔でずっと生きていってほしいと思ったよね。だって、あのメイクからの烏帽子取ってからのあの展開、ずるい。あのビジュアルであの殺陣かよ。初日から比べると前楽の殺陣速い!! って思ったけど、千穐楽はさらにめちゃくちゃブーストかかった殺陣の速さだった。そのあたりは生田斗真の調整力がすごいんだと思うけど。

ところで烏帽子の下の髪型ってどうなってるのかな? っていう話でいろいろあったんだけど。初日は外す段取りの前にアクシデントで烏帽子が落ちてしまい、コーンロウみたいな編み込みが見える&一気に髪がバラバラになるのコンボで。いやホントゆっくん遮那王が帽子取るシーンは、初日のアクシデントが特別すぎて、心の宝物になっている… ありがとう神様…

なんの話だっけ、あ、そうそう、そのアクシデントがむしろ演出なんじゃないかってくらい自然なタイミングで運命のいたずらみたいに起こったし、そもそも鳥髑髏の天魔王と同じ編み込みかよ!!! という衝撃で、元の髪型どころの話じゃなかった。その後の観劇で細いポニテに黒いかんざしが刺さっていることがわかって、それはそれで衝撃だった。

この記事の上のほうで前述した牛若丸の子ども隈は、子どもながらに強く高貴な容貌を作るために眉と唇を隅でまっすぐに引く、っていうものらしいんだけど、遮那王はヤンキーだから眉毛がない。これはしかたない。あの子ヤンキーだからな…。うちの猫がケンカをはじめてメンチ切ってる様子を眺めていると、遮那王ちゃんを思い出す。ファー! フシャー! フニャラベロベロ!! って言いそうだもん遮那王。

それでも、遮那王の冥界行き後の屍人形態、めっちゃ白い。もしも黒のニュアンスが邪気を表すとするならば、だけど、邪気なんてないじゃんこの子。ただのわがままヤンキーじゃん。なんだよ、かわいいかよ。みんなにちゃんと愛してほしかったんだよね、はいはい、わかるわかる、かわいいね、ぺろぺろ。この味何かに似てる。なんだろう、おてんみたいな味がする。

あ、遮那王でグッズにするとしたら、暴れる遮那王のための拘束具ブレスレットが欲しいです。あ、枡と同じ形で作ればいいのでは? 素材も近いし? やったね。

奥華玄久郎国衡

ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!!

ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!!

ビ、ビ、ビジュアルがいい〜〜〜!!!

ビジュアルがいいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!

これはしょうがなくないですか? 作中で「無駄に顔がいい」「顔だけはいい」という設定になっている玄久郎、顔がよくないわけなくないですか? 役の性格上、そこそこお召替えもあって、山を駆け回る元服前のマタギ姿から、源氏の総大将姿、そして冥界の屍人形態、そこからの最終形態進化…!! 最終進化した玄久郎、美の化身すぎて目を疑った。「きれい…」と声を出すわけにもいかんので、深い溜息を静かに吐くしかできなかったけど…。

特に上手から観る最終形態玄久郎、存在が芸術だった。上手大勝利案件。しかし下手からしか見えない表情もあるし、2階からしか見えない角度もある。偽経フェスティバルホールは2階からのビューがよすぎておったまげました…。ライティングで床に映る模様まで全部見えるし、その中に立つ斗真玄久郎の美しさったらなかった…。どセンターで観てみたいなとも思うけど、ここから先、手持ちのチケットにどセンはなかった。東京福岡に期待。

玄久郎の隈取りの色入れ、回によって微妙に角度が違うのが趣があってよかった。短い時間であの隈入れるの、シンプルなぶんだけめちゃめちゃ大変だと思う…。冥界からの出戻り組の中でいちばん白の白みが白くて、いろいろな素材感をミックスした衣装。透け感というか透けしかない粒ラメ羽織が普通に着こなせるの、斗真玄久郎しかいないでしょ… 強い… 新感線の太いビジュアルに説得力をもたらす強い素材、生田斗真の肉体…。

「あの顔で言われちゃしょうがない」と作中で言われ続ける玄久郎、客席からも「ホントだよ!」ってレスポンスしたいよね。絶対的コールアンドレスポンスが必要。いや、もちろん優れた演技あってのビジュアルですよ、役者さんの場合。でもね。演技がよかったことについては、これじゃない記事で書きますからね、この記事はビジュアルのことだけ書いてますからね、許してくださいね。

小道具のビジュアル

新感線の舞台は小道具を観るもの楽しみのひとつなんですよね〜。いい感じに手を抜きつつ、機能とメタファーが担保されている。偽義経には木乃伊もいっぱいいたし、観るものたくさんあって楽しい! ここでは黄金のことだけ書いておこうかな。

木乃伊から生成される黄金の塊。最初観たときは形が元宝に似てるかな? とも思ったけど、ぜんぜんそんなことはなくて、どうにも痩せたバナナにしか見えなかった。その後何度か観てわかったのは、最初に登場する黄金と京に運ぶ用の黄金、箱の中身が違うなってこと。

漆黒の岩屋でできたてほやほやの黄金は、下の層に骨の形まんまの大きい艶少なめのものが入ってる。大腿骨みたいな形の大きな骨ね。上の層には細いブーメラン型の小さくてギラギラしたのが積んであった。京に運ぶ用の箱になると、例のバナナみたいな形になって、大きさ・形・色艶が統一されてる。ちゃんと加工が入るんだな〜って感心した。

金沢、松本ではどんな小道具を見つけることができるかな〜。楽しみ!

ビジュアルは強いし人間の知性は脆い

ビジュアルをできるだけ目に焼き付けて帰りたくて、いつも目を皿のようにして見つめているんですけど、ちょっとしたことですぐ忘れちゃう。語彙も映像も全部ひっくるめて、記憶ごと飛んでしまう。あれは幻覚だったのかな? と不安に思うこともしばしば。

ビジュアルは強いし、力こそパワーだ。そんなもので殴られたら、人間の知性など地球の裏側まで飛んでいってしまうんだよなぁ。しょうがないじゃない。にんげんだもの。そうやって落っことしてしまった記憶のかけらを拾うため、人はブログを書く。そして次の公演に行く。しょうがないじゃない。にんげんだもの。

念のためですが、まだ私の知性は残っています。大丈夫です。心配いりませんよ。