夜にひしぐは神おろし

お芝居とか映画とか好きなものの話を諸々。自分のためのささやかな記録。

『魔界転生』博多座、初日

福岡博多座で幕を開けた『魔界転生』初日に行ってきました。ずっと楽しみに待っていた舞台なので、感無量。なにせ楽しみすぎて東京公演まで待っていられなくて、博多まで遠征してしまったくらいなので…。

何より、迫り来る台風とのにらみ合いという感じだったので、無事に初日の幕が開けてよかった! 台風のことは小ネタにされていたし、カテコ挨拶でも言及されてました。いやー、本当によかった。

さて、前半にネタバレしない程度の観劇記録、後半にネタバレを含む感想などを書いていきますね。ネタバレ回避の方は途中でお帰りいただけるようになっていますので、途中までお付き合いください。

魔界転生って、ざっくり、こんなお芝居

魔界転生の原作は山田風太郎の『忍法魔界転生』で、有名なのは深作欣二監督の1981年版映画『魔界転生』だと思います。私は2003年の平山秀幸監督の映画版も好きです。映画版の見所は話しはじめると止まらないので、横に置いておいて…(いつか機会があれば書きます)。

博多座のエントランス

今回の舞台版は、新しい魔界転生を目指して新たにマキノノゾミさんによって書き起こされた脚本。ベースの骨子は一緒だけれど、小説版とも映画版ともまったく違う仕上がりになっていました。公式サイトの説明を借りると、

悪霊となり蘇った恐ろしい魔界衆たちと、剣豪・柳生十兵衛とその配下の勇猛な柳生衆たち。
個性的な登場人物が織りなす人間ドラマ、柳生宗矩と十兵衛との親子の絆、そして葛藤、天草四郎たち黄泉の世界から蘇生した魔物たちの心の叫び…。
アクションとカルトとスペクタクルの世界が融合した、壮絶、壮大なエンターテインメント時代劇の最高傑作。
豪華絢爛、空前絶後、予測不能、「日本テレビ開局65年記念舞台」として、不朽の名作に新たな命が吹き込まれます!

魔界転生 | 日本テレビ開局65年記念舞台

実際に観てみると、その言葉のとおり、人間ドラマとして描かれた新しい魔界転生だと感じました。もうちょっと詳しいあらすじを知りたい方は、公式サイトにあるものをご覧になっていただくといいと思います。

ネタバレしない程度のざっくり感想

小説版の設定をベースにしつつ、深作版で付加された設定も乗せているところがうまくて、はじめて魔界転生に触れる人にもすんなり入れるお話になっていた。想像していたよりもじっくりと登場人物の内面を描き出すシーンが多くて、そこがよかったなぁ。

深作映画版では、沢田研二さん演じる天草四郎のエキセントリックで妖艶な側面が強調されていたのに対し、本舞台では「人間」としての登場人物がよく見えた。深作映画版から平山映画版、そして今回の舞台にかけて、人間ドラマのグラデーションがある感じ、と私は思っている。

私は山口馬木也さんがとっても好きなんです。でも馬木也さん演じる由比正雪は、映画版ではあまり前面に出てこない構成になっている。今回どのくらい出番があるのかなって、ずっとソワソワしてた。でもふたを開けてみたら、由比正雪のエピソードががっつり残された構成になっていて、馬木也さんの出番も見せ場も思ってたよりかなり多い! めちゃくちゃ多い! これは本当にうれしいことですよ…。1幕2幕通して馬木也さんの芝居をたっぷり見ることができるので、ぜひ堪能してください…。しかも馬木也さんは二役やっています… 贅沢…。

上川隆也さん演じる柳生十兵衛も、映画版のキャラクター設定とはだいぶ違っている。上川さんの持ち味が生きる愛され十兵衛に仕上がっていて、父・柳生宗矩との関係性やバランスも絶妙。そこが人間ドラマとしてのコントラストを強めていた気がする。マキノさんも堤さんも、上川さんのこと大好きなんじゃないかしら。

人間ドラマといえば、若手役者さんの活躍がいい感じ。ドロドロした魔界の空気と、彼らの青春が交差するのが切ない。皆さんそれぞれの配役をイキイキと演じていて、若さゆえの魅力みたいなものがめいっぱい活かされているのがよかったなぁ。高い身体能力を活かしたアクションも多く、重厚な殺陣シーンの中で軽やかに舞う姿にハッとさせられたりした。

あと浅野ゆう子さん演じる淀君高岡早紀さん演じるお品もとてもよかった…。2人の役はどちらもそれぞれ、かなり新しいアレンジになっている。間違いなく見所のひとつだと思う。派手ではないけれど深い心情をやり取りするシーンに、思わず涙がこぼれてしまったよ。

キャストの魅力もさることながら、舞台美術や演出も見応えがある。美術といえば、衣装やキャラクターデザインが宣伝に使われているビジュアルとは全然違うので、そこは楽しみに見てほしい。1幕と2幕で違うとかいう次元じゃなくて、とにかく全然違うの。馬木也さん演じる由比正雪が出てきたとき、全然違うじゃん! ってなったし。由比のビジュアル好きだな…。

個人的には本当、馬木也さんの由井正雪が演技的にも見せ場的にもとってもよくて、喜びに打ち震えています。ちょっと前までは『メタルマクベス Disc1』でハードな役をやっていた馬木也さん、今回もいい味を出していて最高。カテコでの馬木也さんのやりきった表情を見ることも、楽しみのひとつになりそうです。はぁ、好き。

ただちょっと「長い」と感じる人はいるかもな、という印象。落ち着いて描かれるシーンも多いので、物語に入り込めないでいると長さに疲れてしまいそうな気はする。

私の次回観劇は明日です。楽しみ。誰も怪我やアクシデントなく、無事に東京に来てほしいですね。東京ではたくさん観に行く予定でいます。大阪も1回だけ行きます2回行くことになりそうです。

ここからはネタバレありの感想!

ここからはネタバレになるなと判断した細かい内容が続きます。ワンクッション画像を入れておきますので、ネタバレしたくない人はここで。ここまで読んでくれてありがとうございました! 画像は博多座エントランスに立っているのぼりです。壮観。

博多座エントランスに立っているのぼりたち

はい、では続けます。

過去作になくて今回とてもよかったのは、淀君とお品、そして天草四郎の関係。マキノさん×堤さんの真田十勇士を引き継いだ設定になっていることと、天草四郎の出生についての一説を採用しているところが重なって、新しい味わいを生んでいる。そのおかげで、四郎の悲しみがより深いものに見えるところがいい。私の好きなタイプの四郎だなぁって。

その四郎をまるっと抱いてくれるような十兵衛もよかった。変な言い方かもしれないけれど、なんだか髑髏城の七人の逆バージョンを観ているような気持ちになる。わかる人にはわかってほしい。十兵衛が全部抱いてるんだよ!! ここはステアラかな? ってなったよ…。

ステアラといえば、暗転のないステージでお馴染みだけれど、この舞台も暗転の際の待ちをできる限り減らしているように見えた。どんな舞台を観るときも、セットチェンジの機構とか工夫を楽しみにしているのだけど、魔界転生の舞台セットもおもしろいなぁ。

特徴的なのは、高さの変わる渦巻き状の高台が中央にあることかな。それが回転するようになっている。シーンに応じて細かく回転し、背景がプロジェクションされる。高台の上での演技と下での演技が入り混じって、視覚的に遊びが生まれる。プロジェクションのためのスクリーンがたびたび降りてきて、あやかしの表現をするのに使われているのもおもしろい。

高低差のあるセットを活かしたワイヤーアクションもテンションが上がるね。溝端淳平くん演じる天草四郎がワイヤーでしゅんしゅん飛ぶ。飛ぶよねー! 四郎飛ぶよねー! ワイヤーアクション観るの久しぶりだったので、新鮮。飛んでるときの淳平くんの姿勢が軽やかで、とってもいい。

演出でいちばん笑ったのが、柳生宗矩が転生して戻ってくるシーンでリアル火花をぶしゃーっと吹かせるところ(笑)。無駄に派手(笑)。あとは天草四郎大阪城の蔵を燃やすシーンのプロジェクションかな。城燃やしクラスタは必見だと思います。とても豪快にどーん!!と燃やした感じになっている。

あとはねー、ザ・堤幸彦演出って感じが随所にあって、ふふってなった。幕間でさえも堤味。1幕が終わるときに「休憩」と書かれた白い布がトーン! と降りてきて、上川さんが「30分!」って言うんだけど、堤味しかしない。2幕が近付くと、「魑魅魍魎との戦いまであと○分!」って出てきて、幕開けまでの秒数をカウントされる。マジ堤味。

カーテンコールでは、みんなが踊ってくれる。アクション班のアクロバティックなダンスも素敵だし、役者さんたちが全員踊ってくれるのが楽しい。しかし、踊る馬木也さんがかわいすぎて馬木也さんばっかり見てしまったので、次はもうちょっとまんべんなく見たいと思います…。

言いたいことは尽きませんが、今日はこのへんで。育っていくのも楽しみだし、何度も観ることで自分の中の解釈が変わっていくのも楽しみ。皆さん無事に走りきれますように!