夜にひしぐは神おろし

お芝居とか映画とか好きなものの話を諸々。自分のためのささやかな記録。

『スリル・ミー』東京芸術劇場シアターウエスト(ネタばれなし)

先日ミュージカル『スリル・ミー』 を観てきました。1920年代に全米を震撼させた少年誘拐事件を基にした究極の心理劇で、事件を起こした二人の天才が主役。主役どころか舞台上には2人しかいない。そういうお芝居でした。

出演者はたった2人。
“私”と“彼”、そして1台のピアノ。
難題に挑むのは、演劇界きっての若手実力派の俳優たち。
シンプルであるがゆえに緊迫した空間。
客席を圧倒するエネルギー。
強烈な旋律の頂点に向かって走る100分間。
世界各国で上演が相次ぎ、異例のロングランを記録している話題作。

ミュージカル『スリル・ミー』 | ホリプロ オンライン チケットより

日本でも何度か上演されていて、ディープなファンも多いんだとか。私は今回、はじめて観に行ったのですが、めちゃくちゃよかったです…。あまりの衝撃にひたすら感想や解釈の壁打ちをする日々…。気付いたら観劇してから何日も経ってしまいました。はー、本当に衝撃。

シアターウエストの入り口にて

何度目かの再演なので、ネタばれ回避が難しいくらい情報が出回っているかとは思うのですが、私は前情報を全く入れずに観に行ってよかった! と心の底から思っているので、ネタばれなしで観に行ってほしい… でも内容のオススメはしたい… という気持ち。

実は自分の感想&解釈壁打ちが終わるまでは他の人の感想を入れないようにしたくて、まだ人様の感想を読めていません…。この観劇記録と壁打ちまとめを書き終わったら、他の人の感想を読もうと思って楽しみにしています。

スリル・ミーの魅力

ということで、ネタばれなしで拾えそうなよかった点、オススメできる点をふわっと書いていきます。ネタばれなしのつもりですが、人によってネタばれの感度は違うので、やばいと思ったらここでお帰りください。

ざっくり言うと、3つの魅力に分けられるかなと思っていて。

  • 舞台空間が織り成す没入感
  • 俳優の演技による説得力
  • 底の知れない戯曲の構成

このひとつひとつが完璧に存在する劇場空間を味わえることが、とってもうれしい。そんなふうにゾクゾクできるお芝居に出会えて幸せだなって思いました。それぞれについて、ネタばれにならない程度に、もう少し詳しく書きます。

舞台空間が織りなす没入感

あまり大きくない劇場で、音楽はピアノ1台。シンプルだけど技工に満ちたライティング。誰かの息を飲む音すら聞こえそうな、そんな張り詰めた空間に身を置くこと自体が非常にスリリング。

じっと開演を待つ間、自分の鼓動が少し早くなるのを感じる。最初のピアノの音で、鼓動がひとつ跳ねるのを感じる。そんな非日常の舞台空間がもたらす『スリル・ミー』の没入感は特別でした。あのドキドキをぜひとも感じてほしい… あの高まりを自分もまた味わいに行きたい… 私にとっては、舞台空間だけでリピートに値する価値でした。

俳優の演技による説得力

今回の2018年版では、2組のペアが『スリル・ミー』を演じています。私役・成河さん、彼役・福士誠治さんのペア、私役・松下洸平さん、彼役・柿澤勇人さんのペアです。

ロビーの撮影コーナー

私は成河さんと福士さんペアに興味を持って『スリル・ミー』にこんにちはしたんですけど、どちらも違った関係性が感じられて、これ知ってるやつだ… みんな違ってみんないいやつだ… 違いの沼がぱっくり口を開けて広がっているやつだ…!!」と震えています。こういうパターンに弱い。驚くほど弱い。過去作がめちゃくちゃ気になっているし、たぶん未来の再演も観ちゃう…。

特に注目していた成河さんと福士さんのペアは、予想も期待も超える表現を観せてくれた。どのペアの関係性・どのペアの表現が好きかっていうのは、好みの問題でしかないので大したことではないと思っていて、好きなペアの何に心動かされたのかっていうのが重要だと思う。

私が成河さん福士さんペアに心打たれたのは、繊細な感情表現と状況描写。今そこで起こっていることが空気に乗って伝わり、まるでそれに触れるような錯覚に溺れそうになる。これがミュージカルでなくストレートプレイだとしても同じだけ心が打たれるであろうと確信できる。2人が作る空気の波にさらされる時間がすごく気持ちよくて、演劇が好きだなぁって心から思った。

底の知れない戯曲の構成

お話の構成が普通におもしろい。これについては解釈の壁打ちが全然終わらなくて、まだまだ味わい尽くせていない気がしているのだけど、何も考えずに素直に観ているだけで普通におもしろい。解釈の壁打ちなんてのは物好きが己の楽しみのためにやることなので、そんなことはどうでもいい。素直に観てれば普通におもしろい。それで十分ではないか。

でも、でもだよ、もしあなたが物好きなのだとしたら、観た後の衝撃や戸惑いや謎を反芻する楽しみはとんでもなく膨大に広がっているよ… おめでとう… おめでとう…。

そんな調子で、私もまだ全然壁打ちが終わっていません。年内にもう一度成河さん福士さんペアを観に行く予定なので、それまでには一度区切りを付けてから観に行きたいのですけど、全然終わる気配がありません… こわい…。

『スリル・ミー』、2回は観てほしい

現時点では、違ったペアを1回ずつ観たのですが、どのペアを観るかはともかく、2回観てほしいお芝居だなぁと思っています。どうして2回観てほしいのか、めちゃくちゃ詳しく書きたいところなのですが、それはネタばれありの場所で思う存分書きたいなって思います。

2018年の最後に、とんでもなくハマれるお芝居に出会えてよかった。今はそんな気持ちです。現場からは以上です。続きは壁打ちがまとまったら、ネタばれありの壁打ち記事で書きたいと思います。